大陸の北方に位置するルーヴェンス王国。

 紛争を繰り返し近隣の諸国を制圧・併合したその大国の勢力は、北の大地のほとんどを埋め尽くしている。
 今や世界的にも無視の出来ない強大な国家となったルーヴェンス王国は、やがては大陸統一を果たすのではないかと目されるまでに至った。

 そのルーヴェンス王国を統治する国王には、双子の娘がいた。
 男子には恵まれなかったが、二人の王女は共に美しく成長し、大国の姫君として相応しい器量を備えていた。

 見目麗しい美貌も良く働く知恵も同等の彼女達に優劣を付ける事が敵わず、国王は王位継承権の第一位を姉ティータに、続く第二位を妹リーゼに与えた。

 同等の能力を有する二人の間に存在する、ほんの僅かながらも決定的な差。
 それは、どちらが先に産声を響かせたかという至極単純な事実のみだった。

 納得がいかないのは、何もかもが同格のはずなのに姉との間に決定的な差を設けられた妹王女、リーゼだった。
 リーゼはその時を境に歪み始め、姉ティータに対して劣等感と憎悪を募らせていく。

 そして皮肉な事に、その負の感情がどうしても滲み出てしまうのか、いついかなる時もたおやかで誰からも愛される第一王女ティータに比べ、どこか陰のあるリーゼに対する臣下や民の印象は良くないものへと変わっていってしまった。

 国民の誰もがティータの王位継承を揺るぎないものだと確信するようになった頃、一人の男が王国にふらりと足を踏み入れた。

 男の名はウォルド・クロウリー。
 魔術師であり、魔法を使った「何でも屋」でその日の糊口をしのぐ日々を送るような男だった。
 ウォルドは、邪教を崇拝していたが故に迫害され、辺境の隠れ里に追いやられた挙げ句、王の率いるルーヴェンス軍によって滅ぼされた一族の末裔であり、その生い立ちから王国への復讐を誓っていた。

 そんな中、「何でも屋」ウォルドの噂を聞きつけてやってきた新たな依頼人、それはなんとルーヴェンス王国第二王女、リーゼであった。

 王国への復讐を誓うウォルドと、姉ティータへの憎しみを抱くリーゼが出会う事で、暗く陰惨な物語は幕を開ける……。